3-1. 場の理論的世界観 – 電磁気まで –
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標準理論は場の量子論の枠組みで記述され、量子力学にはない多様な世界が広がっている。そこで、場の量子論的には素粒子の世界がどういうことになっているのかを定性的に説明する。「1. 素粒子の世界」で紹介できなかったトピックにもここで触れる。
●フェルミオンとボソン
素粒子に限らず、粒子にはフェルミオンとボソンの2種類がある。粒子に2種類のタイプがあることは簡単に予言できる。2つの同種粒子が位置$\boldsymbol{x}_1$と$\boldsymbol{x}_2$に存在する確率振幅は、波動関数$\psi(\boldsymbol{x}_1, \boldsymbol{x}_2)$で表せる。粒子には個性がないので、この2つの位置を入れ替えた$(\boldsymbol{x}_1 <--> \boldsymbol{x}_2)$としても観測量にはなにも変化は起こらない。あったとしてもせいぜい位相の変化くらいである。その位相の変化分を複素数$\alpha$とおく。2回続けて入れ替えを行うと波動関数レベルで元に戻ることから
\[\psi(\boldsymbol{x}_1 , \boldsymbol{x}_2) = \alpha\psi (\boldsymbol{x}_2, \boldsymbol{x}_1) = \alpha^2\psi (\boldsymbol{x}_1, \boldsymbol{x}_2) \\ \Rightarrow \alpha^2 = 1 \Rightarrow \alpha = \pm 1 \]
と求まる。$\alpha=-1$に対応する粒子がフェルミオン、$\alpha=1$に対応する粒子がボソンである。
フェルミオン:
「1. 素粒子の世界」では、物質を細かく分割していくとクオークやレプトンの素粒子に行きつくことを紹介した。それらは全てフェルミオンと呼ばれる種類の粒子である。フェルミオンは半整数(1/2, 3/2, …)のスピンをもつことが知られており、特に素粒子のあいつらはスピン1/2をもつ。そして、フェルミオンはさらにとんでもない性質をもつ。先ほどの式で$\boldsymbol{x}_1 = \boldsymbol{x}_2 = \boldsymbol{x}$とすると、
\[\psi(\boldsymbol{x}, \boldsymbol{x}) = -\psi(\boldsymbol{x}, \boldsymbol{x}) \Rightarrow \psi(\boldsymbol{x}, \boldsymbol{x}) = 0\]
となり、二つの同種粒子が同じ位置にいる確率振幅はゼロとなる。つまり、2つ以上のフェルミオンは同じ場所に存在することが許されない。電気的な反発力などがなくても粒子は互いを避けあうのである。これをパウリの排他律という。
ボソン:
物質の構成要素はフェルミオンであった。この他に、素粒子には物質の構成要素にならないものがある。それらはボソンと呼ばれ、例えば光がそれである。「1. 素粒子の世界」では、素粒子同士の相互作用についても紹介したが、実は、その相互作用の源も粒子であり、ボソンがその役割を担う。物質の”最小単位“もそれらの間の”作用”も素粒子が根源であることを鑑みれば、素粒子物理学を勉強すれば宇宙のすべてが理解できると夢見るのも無理からぬことである。ボソンは整数(0, 1, 2, …)スピンをもち、特に光はスピン1をもつ。なお、ボソンにはパウリの排他律は働かないのでいくらでも重ねることができる。レーザーが光のこの性質によるものであることは、ssiには釈迦に説法だろう。
●場・バ・ば!!!
場の理論では、フェルミオンだろうとボソンだろうと、素粒子はそれぞれ自分の“場”というものを持っていると考える。光とは電磁場を伝わる波である。同じように、電子には電子の、アップクオークにはアップクオークの“場”が宇宙全体に張られており、それが励起すると粒子としてふるまうのである。この様子は数学的には、時空の各点$x=(ct, \boldsymbol{x})$に値を持つ関数として表される“場”を演算子として用い、これが真空に作用することで粒子を作り出すというように記述される。場の関数は無限遠方で$0$になるものとして導入される。この必然性はよく分からないが、変分原理などを使うときの計算上の利便性のためではないかと思う。また、真空とは一般的には物質が存在しない空間のことを言うが、場は存在する。光が伝播するのに物質的な媒質は不要だが電磁場は必要であったことを思い出してほしい。
場の理論は、議論に必要な場が真空を占めているところからスタートする。真空状態はケット記号を用いて$\left\lvert 0 \right\rangle$と表される。そして、例えば電子の場を$\phi(ct, x, y, z)$と表す。前述のように場$\phi$は演算子であり、状態に作用させることができる。真空状態に$\phi$を作用させた$\phi\left\lvert 0 \right\rangle$は、電子が時刻$t$に位置$(x, y, z)$にいる状態を表す。なぜそう言えるのかは5章で説明するが、このように、場を状態に作用させることで粒子を生成したり消滅させたりすることができる。粒子数が保存しない相対論的な量子力学にうってつけの理論体系でありそうなことが感じられるだろう。粒子がどのような性質を持ち、どのような相互作用をするのかは偏に場の関数の性質に依存する。場の理論では、場が従う運動方程式や2つ以上の場の相互作用項について考える。
●電磁相互作用
粒子同士に働く力には「電磁気力」、「弱い力」、「強い力」などがある。電磁気力は、電荷をもつ粒子同士が光子を交換することによって生じる。素粒子物理の相互作用をビジュアルに表記する方法としてファインマンダイアグラムがある。この表記において、ダイアグラムは下図左側のような備品をいくつか組み合わせて作り上げられる。例えば、電子と電子が電磁気力で反発する過程は、下図右側のダイアグラムで表される。
時間は右向きに進んでおり、2個の電子が過去からやってきて光子をやり取りした後、未来に向かって飛んでいく様子が描かれている。また線上に書かれた矢印は電荷の流れを表している。光子には電荷がないので矢印はない。始状態と終状態を表す粒子の軌跡を外線、外線を除いた内側の線を内線という。この例では外線は全て電子で、内線に光子が一つ飛んでいる。
光の粒子性を確認した実験の一つにコンプトン散乱がある。静止している電子にX線をぶつけて散乱前後の運動量の変化を計測する実験であるが、これは下図左側のダイアグラムで表される。始状態も終状態も電子と光子が一個ずつ存在している。
このダイアグラムを左回りに90度回転させると右側のグラフになる。この図は、2個の電子(始状態)が、2個の光子(終状態)に変化する様子を表している。ところで、上側の電子の矢印が時間の方向と逆向いている。これは、時間順方向に逆符号の電荷が流れているとみなすことができ、電子の反粒子である陽電子を表していると解釈できる。つまりこのダイアグラムは、電子と陽電子が対消滅し、2個の光子になる過程を表している。全く異なるように見えるコンプトン散乱と対消滅であるが、ファインマンダイアグラムで表すと両者の類似性が見えてくる。
なお、光子自身は電荷をもたないため、光子同士は電磁相互作用をしない。
(余談)昔から、物体に力を及ぼすと一瞬で必ず反作用が返ってくることを不思議に思っていた。場の理論において、相互作用は力の媒介粒子をお互いがやり取りする描像で描かれる。これを知ってなんとなく納得できた。
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